Vol.5
NIKE SPORTSWEARのAIR MAX 90 ESSENTIAL
パーツと素材を複雑に組み合わせた
完成度の高いマスプロダクション。
20代の頃、エアマックスの中でどのモデルが一番好き、と聞かれると「AIR MAX 90」、もしくは「AIR CLASSIC BW」と即答していました。
個人的に、いろいろなシリーズものの初作って、どうしてか一番好きと自信をもって言えず、だいたいいつも3〜4作目が印象に残るタイプ。
同じナイキならエア ジョーダンのシリーズもそう。ジブリ作品やドラえもん映画もまた然りです。
おそらく、初作の改善点などが反映され、マスプロダクションとしての完成度が評価されるのが、だいたいこのあたりの作品なのでしょう。
ちなみにAIR MAX 90は、モデル名の通り、1990年にデビューした3代目のエアマックスです。
その前作はAIR MAX LIGHTと呼ばれ、初代に比べると軽さに着目したモデル。余談ですが、そのときはAIR STABがAIR MAXの派生というかワンランク上のモデルとして扱われていました。
1988年のカタログを見ても、ランニングカテゴリのトップに位置しておりナイキの注力ぶりが窺い知れます。
「AIR STAB」はスタビリティー(走行安定性)を重視するべく、フットブリッジという硬度の高いパーツをミッドソールに搭載し、足の横の動きのブレを防ぐ機能に着目されました。
エア ユニットの容量も随分と高まり、「AIR MAX LIGHT」とどっちの方が世の中に需要があるか、試された気もします。
AIR MAX 90はその答えでした。AIRの役割は軽さではなく、クッショニングだと。その方向性を導いたのです。
ミッドソール内に搭載されたエア ユニットの形状も大きくなり、よりクッショニングが高められました。
蛍光色のパーツはテクノロジー時代の新しい到来を予感させるものでした。ちなみに、走行安定性を高める役割はヒールのハート形のマックスロゴが果たしています。
この樹脂パーツは、横軸に何層もの畝(うね)をつくることで衝撃に対する縦のサポート性を高めるためのもの。
AIR MAX 90独特のデザインと言われていますが、この時代のランニングシューズは、多少の形状に違いはありますが、多くのメーカーが採用しています。
こういった機能を視覚化した主張のあるデザインは、「自分は、話題のスニーカー履いている!」という意識をアピールできるため、ヒップホップカルチャーに好まれます。
でも、「AIR MAX 90」は別格。先ほど書いた樹脂パーツに加えレザーやメッシュがあり、今の時代のシューズでは感がられない複雑なパーツを組み合わせながらバランスよくまとまっていると思います。
今回紹介するのはシックな黒ベースであれば、よりその完成度の高さがわかるはず。
エア マックスはついAIRの進化ばかりが話題になりますが、時代感やデザイナーのセンスを気にしてみると、自分の”好き”が見えてきます。
世の中のレア度やコラボ相手だけを気にせず、自分なりのフラットな感覚でデザインを評価すると、スニーカーはもっと楽しくなるのでは。
小澤匡行
MASAYUKI OZAWA
1978年生まれ、千葉県出身。雑誌『Boon』でライター業をスタート。現在は編集・ライターとして『MEN’S NON-NO』、『UOMO』(集英社)等のファッション誌やカタログ、広告などで活動。2016年に『東京スニーカー史』(立東舎)を上梓、近著に『SNEAKERS』(スペースシャワーネットワーク)の日本語監修など。
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